長内教授のアメリカ便り #1「アメリカ大統領選挙」

 9月からサバティカル(研究専念期間)を頂き、ハーバード大学の客員研究員としてボストンに来ています。こちらでは大学院生の寮に住まわせてもらっているのですが、何でもお祭り騒ぎにしてしまうパーリーピーポーなアメリカの学生なので、大統領選挙の開票速報もみんなで集まって飲みながらワイワイやろうということだったのですが……。開票が進みトランプが優勢になるとまるでお通夜の晩。こちらではハーバード共和党クラブまでトランプ不支持を表明するくらいでしたので、会場に来た学生はほぼ全員(少なくとも表面的には)ヒラリー派。

 それにしても直近の予測でもヒラリー勝利が予想されていたのになぜトランプの勝利に終わったのでしょうか。ひとつにはヒラリーの人気のなさが理由でしょう。メール問題はトランプの女性問題と相殺されるとしても、ヒラリー個人の魅力のなさに加えて、彼女が古い体制の象徴でもあったからというのがもっぱらの見方です。もしかすると、女性を大統領にしたくないという保守的な思想も影響したのかもしれません。

 とはいえ、ハーバードの学生達がお通夜の晩のようになったように、一定の社会的地位にある人たちはトランプを支持していませんでした。トランプ優勢が伝わると同時にダウ平均もポイントを下げましたし、ABCのニュースキャスターは「この上はカナダへの移住しかない」とまで言っています。しかし、選挙結果が示したのは多くのアメリカ人がトランプを選んだと言うことです。州毎の選挙人総取りなので常に絶対多数が支持をしなくても大統領になれるのがアメリカの大統領選挙ですが、今回の選挙を見る限り、得票総数でもトランプの票はヒラリーを上回っています。アメリカでは非白人系国民の割合が年々増加していますので、保守系白人を支持母体とする共和党は不利になってきているにもかかわらずです。

 ここにアメリカ社会の特徴である格差社会が現れているといえるでしょう。外交や国際経済に少しでも理解があればトランプの主張が無茶苦茶であることは分かるので、そうした人たちは、消去法でヒラリーを選んでいたはずです。そこまで考える余裕のないブルーカラー層の支持がトランプを支えたとすれば、今回の選挙は所得格差がひとつのポイントだったのでしょう。こういう人たちは堂々とトランプ支持をしていた人たちです。ヒラリー陣営の戸別訪問戦略では、こうしたトランプ支持者へは一切説得をしなかったといいます。理屈で通じる相手ではないからです。ある意味馬鹿にしていますね。

また、それに加えて、隠れトランプ支持者も少なからずいたのではないかと予想されます。それが事前の調査と実際の結果との乖離に現れているのでしょう。現在の状況に対する閉塞感を打破してくれそうな期待をトランプに抱く。でも社会的に一定の地位があって、自分の属するコミュニティで表だってトランプ支持を表明するのは周りから馬鹿にされると思っている人たちが、こっそりとトランプに投票をしたのかもしれません。いずれにしても日本のような総中流社会ではなぜこのような結果になるのか理解しがたい選挙だったかもしれませんが、都知事選挙の時に在特会の桜井氏が11万票もの得票を得たことを考えると、日本でもじわじわと格差社会が広がってきているのかもしれません。

WBS稲門会

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